第六章 遠い山並みの彼方 の巻

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「近藤さんも山南さんを逃がすつもりだったんですか?」 「当たり前だよ。俺も歳と気持ちは同じだ。むしろ、斎藤君の方から志願してきたし『会津の彼女(おんな)の家に隠遁生活をさせる』とまで言ってきたよ。永倉・原田・藤堂・源さんも『自分が腹を切るから、許して上げて欲しい』と山南さんの助命を願ってきたよ。沖田が連れ戻した後は再度逃がすことも考えていたらしい。沖田もその話を聞けば乗っただろうな」 「それが何で犬千代に? あいつだって山南さんの世話に!」 「俺だってわかんねぇよ。幹部の脱走だからな、松平容保公に報告の方を行ったら『御犬様に行かせろ、幕府の命で斬るように』と言われたものだから、従ったまでだ」 「近藤さんも、わかっていない?」 「報告を受けるに、山南さんは自分から腹を切っている。どうしてそんなことをしたかもわからねえんだよ」  道場の外には二人の話を盗み聞きする者がいた。伊東甲子太郎である。話の節々から判断するに、近藤勇も土方も「秘密」に関しては蚊帳の外。 自らの参謀室へと戻った伊東甲子太郎は、その事実を前にニヤリと口角を上げた。 一介の隊士、豊田犬千代。彼がこの幕末の動乱を左右する存在であることを知る者は…… 限りなく少ない。 その者達の蠢動を皮切りにして、幕末の動乱は風雲急を告げるのであった……
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