第七章 龍のいななき の巻

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第七章 龍のいななき の巻

 山南敬介切腹より程なくにして、新選組は壬生屯所から西本願寺へと移った。 これにより京の都に潜伏する勤王の志士…… 特に長州藩士の動きは止まるかと思われたが、むしろ活発になりその数を増やすようになっていた。 最近では、犬猿の仲である筈の薩摩藩との接触が多いとされている。 幕府は薩摩藩の軍事力と長州藩の財力とが結びつくことに危惧を覚えており、その(なかだち)を行う「死の商人」の抹殺を新選組に命じるのであった。 土方は各隊組長を宿坊会議室に集め、評定を行う。 「土佐藩脱藩浪士、坂本龍馬。今は薩摩藩お預りの亀山社中の長を務めており、あちらこちらに最新鋭の大砲や銃を売りまわっている。その亀山社中は私設海軍としての面も持っており、あちらこちらの海戦に参加し手助けしているそうだ。その坂本龍馬は、現在京都に潜伏している。見つけ次第即座に殺せとの仰せである! 各組長、心よりの活躍を願うぞ!」  当面の目標は坂本龍馬。その旨を説明する評定が終わると共に、犬千代は事務方の隊士より呼び出しを受けた。 「犬千代さん。荷物が届いております、才谷梅太郎と言う方からなんですが」 さいたにさいたに…… そんな名前に覚えはない。犬千代は首を傾げながら、荷物を運び終えたばかりで掃除のなされていない自室へと戻り、届けられた荷物の確認を行う。 荷物は漆塗りの桐箱、一体何だろうかと開けてみれば、入っていたのは脇差一本。 しかし、柄の部分は龍馬が持っている短銃ModelⅡに酷似したもので珍妙極まりない。 脇差とModelⅡを組み合わせた「刀」とも「銃」とも言えない不思議な代物を前に犬千代は首を傾げてしまう。 桐箱の隅には一通の手紙が封入されていた。犬千代はその字の汚さに、困ったように溜息を()いてしまう。 手紙の内容は「以前に命を助けられた礼がしたい」と言う旨で、脇差はその手付みたいなものであると(したた)められていた。 犬千代は「命を奪うことは多いけど、救った覚えはないなぁ」と苦笑いをしながら首を傾げる。 手紙の文末には、その為に一席を設けてある旨と店の屋号が書き添えられていた。日時は手紙が届いた日より、三日後。 普通なら呼び出しからの闇討ちを疑い行く筈もないのだが、書き添えられた署名の名を見て行かざるを得ないと判断をした。
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