第七章 龍のいななき の巻

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「才谷梅太郎…… こと、坂本龍馬。巫山戯(ふざけ)ているのだろうか」 今の新選組の第一殺害対象である坂本龍馬。そんな人間からの手紙を貰えば、新選組に報告の義務があるのだが、犬千代の中では勝麟太郎からの「龍馬を守れ」と言う命令は生きているために報告をせずにいたのである。 犬千代がそんなことを考えながら屯所内を歩いていると、大砲の音と銃声が聞こえてきた。 西本願寺の広大な土地を活かした大砲の砲撃訓練と、銃撃訓練の音である。 火薬のニオイは平気だが、流石に大量になるとむせてくるもの。 犬千代はニオイが落ち着くまで屯所の外に出ようと考えた。 すると、一人の男に声をかけられる。 「これはこれは犬さんじゃないですか」 声をかけたのは武田観柳斎。五番隊組長である。 「どうも、武田さん」 「今、五番隊で大砲と銃の訓練やってるんですけど。犬さんもどうですか?」 「いえ、遠慮しておきます」 武田は犬千代の腰に架けられた珍妙極まりない刀を一瞥する。 「ModelⅡ? ん? なんか違いますなぁ?」 「大小の大しか持ってなかったので、小を持つことにしたんですよ」 犬千代はModelⅡと脇差が一体化した剣を引き抜いた。武田はそれをマジマジと舐めるように見つめる。 「変わった剣ですな。刀の峰側には銃口がありますなぁ、単銃脇差とでも言えばよいのでしょうか。ウチで使っているゲベール銃よりも性能が良さそうだ」 「あれ? ミニエー銃やスナイドル銃じゃないんですか?」 「騙されたんだよ。ミニエーやスナイドルが安値で手に入るって言うから、購入してみたら全部ゲベール銃!」 ゲベール・ミニエー・スナイドル。どの銃も知識がなければ見た目は同じようなもの。 悪質な武器商人はこれを利用して、高性能かつ高級なミニエーやスナイドルの値段でゲベールを購入させていたと言う。そして、その騙される購入先は幕府が多かったと言う…… 知識のある他藩、主に薩摩藩や長州藩などは先んじて良質な武器商人よりミニエーやスナイドルを購入している…… 「安物買いの銭失い。やられましたね」 「頼りは数だけだ。ところで、犬さんは銃の方は?」 「からきしです。剣一本でいくと決めてるので」 「刀じゃ銃弾や砲弾は落とせませんよ? 弾丸はお持ちで?」 桐箱の隅には弾丸の入った茶巾一袋。犬千代はそれを武田に差し出す。 「ちょっと、撃ってみますか?」
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