第七章 龍のいななき の巻

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 二人は銃撃の練習場へと向かった。武田は犬千代より短銃脇差を受取り、柄のシリンダーを押し出す。 「いいですか? この六つの穴が空いたレンコンみたいなところを『シリンダー』といいます。その穴に弾丸を入れることを『装填』といいます」 「銃口に弾丸を入れるものじゃないの?」 武田は横の射座(シューティングポイント)にてゲベール銃を使い先込装填を行う隊士を一瞥する。 「いいですか? 一発撃つ毎に先端に弾丸を込めていては二発目を撃つまでに時間がかかる。その間に撃たれては世話がない」 「確かに」 「でも、銃の後ろに複数の弾丸を入れる場所『弾倉』『シリンダー』と言うものがあれば、二発目はすぐに撃てる」 「便利ですね」 「だから、ゲベール銃は時代遅れだ。これからは後込め式の銃の時代なんだよ」 武田は短銃脇差の先端を遥か遠くに見える巻藁に向かって構えた。 峰の先端が照星(フロントサイト)を果たし、鍔にある僅かな凹みが照門(リアサイト)の役目を果たしているのか。 外見こそ珍妙極まりない脇差だが、立派に短銃としての役目を果たすことが出来るじゃないか。武田はニヤリと口角を上げる。 「いいですか? 刀の峰の先端を『目標』に当てて、先端と鍔の凹みを重なるように合わせて、銃爪(トリガー)を弾くのです」 BAN! 武田が銃爪(トリガー)を弾くと、短銃脇差の銃口より一発の弾丸が発射された。 弾丸は空を引き裂き、巻藁に見事な風穴を空ける。 「こうして、弾丸(つぶて)を飛ばすことで相手を攻撃するのが銃なのです。鉛の礫は刀程痛くはありませんが、体の中を削った上で中に残るので、ある意味では刀での傷よりも危険です」 そういうものだろうか。武士が持つのは刀ではなく、銃を持つ時代になりつつあるということだろう。差詰、この短銃脇差は刀から銃へと武士の魂が変わりつつある過渡期に使うものであるかもしれない。 犬千代はそんな見当違いのことを考えながら、武田より短銃脇差を受取り、巻藁に銃口を向け残り五発の弾丸を撃ち出した。
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