第七章 龍のいななき の巻

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BAN! BAN! BAN! BAN! BAN! ガチッ…… 弾丸は五発とも巻藁の中腹に風穴を開けた。初めて銃を撃ったとは思えない程の命中率に武田は驚くばかりである。 「お見事」 その瞬間、犬千代は新しい戦い方を閃いた。六発の弾丸を短銃脇差に装填すると、射座(シューティングポイント)から目標(ターゲット)のある巻藁の元に向かって一気に走り抜け、短銃脇差の刃で巻藁を突き刺した。 「零距離、取った!」 BAN! BAN! BAN! BAN! BAN! BAN! 犬千代は短銃脇差を巻藁に突き刺したまま、銃爪(トリガー)を六連続で引く。刺突と銃撃を同時に受ければ生きていられる者はそうそういない。 殺傷に特化したこの攻撃を見た武田は「実に非効率だ、銃の遠距離攻撃と言う利点を活かしていない」と思いつつも、確実に殺すためにこんなことを考えついた犬千代に心からの恐れを覚えてしまう。しかし、何よりも考えることは「あんな攻撃を受けたくない」それのみである。 「犬さんは、心の底から侍ですなぁ。戦いが刀から銃に切り替わりつつある時代でも、刀を使って戦い続けて欲しいものです」 「俺はやっぱり、剣が好きだな。銃とか撃ってくるやつがいても、さっきみたいに懐に入り込んで斬りかかるのが(しょう)に合ってる」 「まぁ、それは犬さんの勝手ですよ。斬り合いになった時に、反撃で弾丸が飛んできたら怖いですな。そうだそうだ、さっきその剣で撃った時に気がついたんですけど、無銘ですね。柄の部分がModelⅡだから銘も入れてない。ただ、刃紋を見る限りでは犬さんの使っている孫六井伊に勝るとも劣らない業物と見受けしますね」 「無銘の逸品ってやつですか」 「そこでどうでしょう、反撃刀と銘するのは。先程の懐に入り込む戦い方は反撃にこそ相応しい。それに最近の幕府は勤王派に圧されている、その巻き返しの意味で……」  この当時の長州藩は蜂起した高杉晋作によって内乱状態。極めて少人数たる高杉晋作率いる奇兵隊の前に数で勝るはずの長州藩の佐幕派は連戦連敗。 その報は全国各藩の尊王志士を激しく鼓舞するも同然。市井の民達もその姿に勇気づけられ尊王志士を支持する者が増えているのであった。 幕府としては巻き返しを考えているのだが、その切欠すらも掴めずにいる。 「そのまま…… ですね」 「銘がない以上、どこの刀鍛冶が打ったかも、どこの刀鍛冶の里で打たれたかもわかりませんし……」 「分かった。この脇差は反撃刀と呼ぶことにするよ」 武田さんに捕まって余計な時間(とき)を過ごしてしまった…… この前に捕まった時は大砲の撃ち方を一刻かけて説明されたのだが、サッパリだ。大砲は砲身の角度で飛ぶ距離が違うとか、大砲(中身)も玉も汚れていると飛びが悪くなるとか…… 磨き方が悪い隊士には五番隊では「折檻」が行われるという。 俺に出来ることは、時間がある時に鉄臭い大砲と玉のニオイに耐えながら少しでも綺麗に磨く五番隊隊士を手伝うのみだ。犬千代はそんなことを思いながら訓練を終えるのであった。
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