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裏路地から出た先は鴨川沿い。俊輔は鴨川の河川敷へと下り、必死になって川下へと疾走る。
「逃がすか!」
犬千代も河川敷へと下り、俊輔を追いかける。暫く追いかけ続け、鴨川のどこかもわからない橋の下に辿り着くと、俊輔の姿を発見けた。
しかし、俊輔は蹲り刀を地面に落としており、ガラの悪そうな侍七人に囲まれている。
そのうちの一人が、俊輔に向かって刀を振り下ろそうとする。犬千代にとっては助ける義理は微塵もないのだが、蹲り無防備になっているやつに剣を振り下ろすことの方が許せずに、孫六井伊を引き抜き、その前に立ちはだかる。
「やめろ! 相手はもう戦えぬではないか!」
侍七人は一斉に犬千代の方へと振り向いた。着物に染められた家紋は長州藩のもの。
長州藩士が長州藩士を手に掛けようとしている光景を前に、幕臣たる長州藩士達が尊王倒幕派たる伊藤俊輔に手をかけようとしているのだと犬千代は判断した。
それならば、助ける義理はない。むしろ、侍七人と一緒になって伊藤俊輔を膾にすることを手伝うべきである。
新選組が行う京都警備でも、隊士数人で一人を取り囲んで膾にすることは多々ある。むしろ、それこそが新選組の得意とする集団戦法である。
犬千代は一対一の斬り合いを得意とするが、そのように戦えることは滅多にない。京都警備の際、隊士や他の組長達が膾にせんと先んじて動くことが多く「仕方なく」集団戦法に参加することの方が多い。
傍から見れば、こんなにも醜いものであるか…… 同族嫌悪にも似た感情を覚えた犬千代は伊藤俊輔に味方をすることにした。
「新選組番外隊組長、豊田犬千代。推して参る。この伊藤俊輔たる者、見逃してもらおう。出来ぬなら…… 斬る」
新選組と言えば我々幕臣の味方ではなかったのか? それが何故に我々に刀を向けるというのか。まぁいい、幕府の犬の中にも尻尾を振る相手を間違えるやつがいるということだろう。膾にして、薩摩藩邸に投げ入れてくれるわ。
薩摩芋(薩摩藩士に対する蔑称)共なら、狗尾飯にして余すところなく食べてくれるであろう! 侍七人は意気揚々としながら刀を引き抜き、犬千代に向かって構える。
「この犬コロめが! 覚悟!」
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