第七章 龍のいななき の巻

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 七対一か。普段の京都警備ならよくあることだ。勝てないこともないが、攻めの方法を間違えて隙を作れば膾だ。ここは新しく手に入れた反撃刀を使うことにしよう。 反撃刀を引き抜いた犬千代は、今にも斬りかからんとする先頭の長州藩士に反撃刀の銃口を向け、銃爪(ひきがね)を引く。 BAN! 銃声が鳴ると同時に先頭の長州藩士は吹き飛ばされて天を仰ぐ。その額には赤点。 頭を撃ち抜いたのである。 ゲベール、ミニエー、スナイドル、ModelⅡ…… 銃が普通に輸入されている現状で、銃殺される者がいるのは珍しくない事象。 しかし、得体の知れない柄を持つ剣に撃ち抜かれるのは前代未聞。残り六人は気圧されて戦意を喪失してしまう。 「なんだ…… この銃…… いや、剣か?」 質問に答える義理はない。そもそも、使っている俺でもこの反撃刀がどういうものかがわかっていないんだ。犬千代はそんなことを考えながら、気圧された長州藩士の腹に反撃刀を突き刺し、銃爪(ひきがね)を三連続で引いた。 BAN! BAN! BAN! 脇差で腹を刺された上に、その刺し傷の近くに三連続の銃撃を受けて生きている者がいるだろうか。 そんな者が居るわけがない。その長州藩士は瞬く間に絶命してしまう。 「邪魔だな」 犬千代は反撃刀に刺さった長州藩士を蹴り飛ばして引き抜いた。それから、血振りを行い反撃刀にこびりついた血を拭う。 残り五人の長州藩士からすれば、衝撃的な光景。しかもそれを成すのは、新選組でも有名なあの「幕府の犬」と来たものだ。この事実を長州藩の幕臣経由で新選組に報告すれば、尊王志士に味方をしたと言うことで切腹間違いなし! ここは逃げるが勝ちだ! 伊藤俊輔はとりあえず後回しだ! 脱兎! 報告のために一斉に逃げ出すのであった…… 終わったか。犬千代は反撃刀の納刀を行いながらも、孫六井伊に手をかけての残心を忘れない。現時点では伊藤俊輔は紛うことなき敵、刺される可能性を考慮してのことである。 しかし、伊藤俊輔は落としていた筈の刀を納刀し自分の右脇に置いていた。膝を曲げ頭も下げているために戦闘の遺志は皆無。
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