第七章 龍のいななき の巻

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「ああ、坂本龍馬に会いに京都に来たのだ」 それを聞いた犬千代は大口を広げてビッシリと詰まった犬歯を見せつけながら大笑いを上げた。 「こりゃあいい。実は俺もこれから坂本龍馬に会うんだよ。一緒に行くか?」 「その言葉、(まこと)であるか? 我々のような尊王志士を一網打尽にしようとは考えていないのか?」 「安心してくれ。俺は松平春嶽殿や勝麟太郎殿に『坂本龍馬を殺すな』と言われている。何を考えているかは知らないけどな」 松平春嶽も勝麟太郎も幕臣中の幕臣、新選組の一介の隊士…… いや、お偉方たる組長にとっても雲の上の雲上人。そんな方々と面識があるこの犬は何者だと言うのか。再び、疑念の種が生まれる。 二人は近江屋へと辿り着いた。犬千代の先導によって新選組の京都警備の巡回路を避けてのものである。 近江屋の外観であるが、至って普通の醤油屋。市井の民が日頃醤油を買いに来る場所で、土佐藩勤王志士の(ねぐら)と言う面があることは一見で気がつくことはまずない。 犬千代は近江屋の戸板を叩いた。すると、戸板が開く。
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