第七章 龍のいななき の巻

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 龍馬は犬千代の顔を見るなりに、満面の笑みを浮かべながら手を挙げる。 「おうおう! 来たちゃきか! さあさ! 座るちゃきよ!」 まるで長年の友を出迎えるような態度に犬千代は驚いた。恰幅の良い男はそんな龍馬を見て渋い顔を浮かべてしまう。 犬千代と伊藤俊輔が腰を下ろすと、龍馬は伊藤俊輔の肩を軽く叩いた。 「えっと、お(まん)の名前を聞いてもいいちゃきか? 藤吉にわしの『ほとぐらふ』渡しとるっちゅうことは、桂さん…… 新堀さんの知り合いちゃきか?」 「い、伊藤俊輔です…… 桂さんの従者にして、長州藩奇兵隊力士隊隊長の任に……」 「ああ、伊藤殿の方ちゃきか。狂介(後の山縣有朋)っちゅうやつが来ると聞いとったちゃきに」 「山縣は、高杉さんの体調が思わしくないために心配だからと」 「ああ、高杉殿は労咳とか言ってたちゃきね。気をつけるように言うぜよ?」 「は、はい…… ところで武器の輸入の方は」 龍馬は恰幅の良い男に目線を向けた。恰幅の良い男であるが、目線は伊藤俊輔には向かずにずっと犬千代の方に向けられている。それに気がついた恰幅の良い男は慌てて伊藤俊輔の方へと向き直る。
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