第七章 龍のいななき の巻

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「薩摩藩名義で、ゲベール・ミニエー・スナイドル銃を購入。亀山社中経由で長州藩に搬送ばするとよ。支払いは長州藩のコメでよかと?」 「桂さんからコメ五百俵での支払いだと聞いてます」 長州藩は武器が不足している。だが、イギリス・アメリカ・オランダ・フランスの四カ国は共同覚書により長州藩には武器は一切売らないと条約を結んでいた。それに加え、幕府の目も厳しいために長州藩のみでの武器の購入は不可能であった。 長州藩の内乱であるが、高杉晋作率いる奇兵隊の獅子奮迅の活躍で佐幕保守派の敗北は決定的なのは先にも述べている。その敗北が決まれば、幕府は今度こそ本腰を入れて長州征伐に乗り出してくるだろう。それ故に長州藩はより多くの武器を希求するのであった。 逆に薩摩藩はコメが不足している。噴煙立ち上る桜島から降りる灰によって生まれたシラスの地ではコメが育ちにくいのである。 薩摩藩であるが、薩英戦争を経て海外の武器の威力を知っていることにより、大量に武器を購入してこれから先の戦いに備えるのであった。しかし、コメが無いために遠征に乗り出す事ができない。大量に購入した武器が無用の長物になりかけていたのである。 武器の足りていない長州藩と、コメの足りていない薩摩藩。この両藩は先述の通り犬猿の仲。 お互いに足りないものを補い合い、協力することなどありえない。 その関係に終止符(ピリオド)を打とうと考えたのは薩摩藩の小松帯刀。脱藩浪士にして操船技術を持つ龍馬を仲立ちにして、長州藩との結びつきを構築しようと考えたのである。 そして今、長州藩と薩摩藩は結びつこうとしている…… 犬千代はその現場に立ち会っていることを複雑に思う。幕府の者としてはここで孫六井伊と反撃刀を引き抜き皆を殺すべき場面である。 犬千代以外の新選組の者がここに立ち会っていれば、こうしているだろう。だが、松平春嶽・勝麟太郎両名より龍馬の殺害を止められている立場の犬千代には動くことは出来ない。この板挟みが全身を震えさせる。 龍馬がパンパンと手を叩いた。
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