第七章 龍のいななき の巻

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「伊藤殿と西郷どんの話し合いはこれまでにしておきましょう。また、長州に行くこともあるちゃきし」 恰幅の良い男は深々と龍馬と伊藤俊輔に頭を下げる。 「それでもはん、小松どんより伝言を預かっておりもはん。いつか、京都の薩摩藩邸に桂殿をご招待したいと。そこで『正式な話し合い』がしたいと言うとるばってん」 そこに眉目秀麗たる男が割り込む。 「薩摩・長州。両藩藩士だけでそれを行うのも平等性に欠けますな。どうでしょう、中立たる藩の誰かを立会人として招くと言うのは」 「よかとよ。坂本殿と中岡殿は亀山社中の者として両藩の間を東奔西走した身、薩摩藩、長州藩どちらにも顔が利く身であれば問題はなかと」 さて、目的は終わった。恰幅の良い男はスッと立ち上がった。龍馬がそれを呼び止める。 「西郷どん、薩摩藩邸に帰るぜよか?」 「伊藤殿から『長州藩の意思』は聞いたばい。小松どんにもそれを伝えんと」 「ああ、そうですか」 「それに『予想外』の目的も達成が出来たとばい。坂本殿、そのために話し合いの場を今日に?」 龍馬は含み笑いを浮かべた。 「偶然ちゃきよ。来るのは長州藩の者だけだと思ってたちゃき。まさか一緒に来るとは思っとらんかったよ」 「また、こうして膝を突き合わせて話をしたいとばい」 「近いうちに出来るぜよ」 恰幅の良い男はそのまま近江屋より去っていった。その瞬間に、部屋の空気が軽くなり落ち着いたものへと変わる。
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