序章 池田屋にて犬吠える の巻

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「日和るな。武士たる者臆することなかれ」 沖田・藤堂・永倉は「近藤先生ならこう言うだろうな」と、わかっていた。 彼らは多摩の剣術道場試衛館にて武士を夢見て腕を磨いてきた同志たち、考えは同じである。  近藤勇は左手で玄関の戸を勢いよく開け、池田屋の土間へと踏み込んだ。 玄関に入り正面に位置する二階へと向かう階段の前には一人の男がいた。池田屋の主人、入江惣兵衛である。 「主人はおるか! 御用改めである!」 その主人、惣兵衛は吃驚仰天! いきなり踏み込んできたのは新選組の隊長。新選組と言えば、勤王の志士は勿論のこと女子供すら斬ると噂される外道も同然の奴ら! 今、二階にいる勤王の志士達からすれば天敵の相手! 知らせねば! 惣兵衛は階段を登り、二階にいる過激派勤王志士達に向かって大声で叫ぶ。 「お客様ーっ! 新選組でございますーっ! 早くお逃げ下さいませーっ!」 不逞浪士の会合の場を用意するとは! この池田屋の主人も倒幕思想持ちの不逞の輩であるか! 許せぬ! 近藤勇は一気に惣兵衛の元へと駆け、腹に拳を叩き込んだ。 惣兵衛は気を絶し、階段をゴロゴロと転げ落ちる。 酒宴中の過激派勤王志士の一人、土佐藩士・北添佶磨が階下の物音を聞き、遅刻していた同士、桂小五郎が来たものと考え襖を開けて迎えに出た。 しかし、そこにいたのは「あの」近藤勇。目が合った瞬間、近藤勇は怒声を上げた。 「新選組の御用改めである!」 近藤勇は階段を駆け上がった。それに続き沖田も階段を駆け上がる。藤堂・永倉は一階に待機。  近藤勇は襖を勢いよく叩きつけるかのように開いた。大部屋では酒宴が行われて皆、へべれけ状態。しかし、いきなり抜き身の刀を持った新選組局長近藤勇が踏み込もうものならいきなり酔いも覚めるというもの。皆、一斉に刀を抜く。 「新選組の御用改めである! 手向かう者はこの近藤勇が容赦なく斬り捨てる!」 たった二人で斬り込んできたくせによくも言う! こっちは二十人もいるのだぞ! 戦いは数であることを知れ! 一人の土佐藩士が近藤勇に向かって斬り掛かってきた。 「踏み込みが足りん!」 近藤勇は土佐藩士を鎧袖一触ままに斬り捨てた。その間隙を縫い、長州藩士が突きを放つ。 しかし、その長州藩士は沖田に胴を一閃で斬られてしまう。 「すまん、総司」 いきなり二人の同士が斬り捨てられたことで過激派勤王志士の大半は恐慌状態。一気に逃げにかかる。浮き足立った者は二階から飛び降りて逃げにかかるも、一階に待機していた藤堂と永倉に阻まれてしまう。それでも、沖田の剣の腕前に臆し戦意を失った者は逃げにかかるもの。 玄関と裏口に二分し、脱兎の如く駆けていく。
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