第三章 犬、鴨を喰らう の巻

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 芹沢鴨はほぼシラフで泥酔したフリをしながら様子見をしていたのである。 普段ならば、これで杞憂だったかと何もされないことが大半。 だが、今回は襲撃を行ってきた。本当、仲間と言うものは信用ができないものだ…… 悲しいぜ? 近藤殿? 芹沢鴨は心の中で涙を流す。 「近藤殿はいないか。あの人を高潔なる侍でいさせたいってところか。けど、自分の手を汚さないのは嫌いだなっ!」 芹沢鴨は沖田の刀を軽く薙ぎ払い、堅固の構えで四人を見据える。 すると、芹沢鴨が沖田の剣を凌いだ時の音を聞いて二つの衝立の向こうより布団が捲れる布擦れの音が聞こえてきた。 平山と平間が起きてきたと言うのか。面倒事を! 今回は秘密裏にとの注文(オーダー)が出ている。申し訳ないが、平山と平間は仕留めなくてはならない。土方は思わずに舌打ちを放ってしまう。 「芹沢さん? どうしたんですか~? うるさいですよ~?」 平山が衝立の向こうより顔を出した。隻眼に入るは先程まで酒を飲み交わしていた土方・沖田・山南・原田の四人が黒装束を着込み、刀を構える姿。芹沢鴨と違い、酒も深く入っている上に寝起きであることから夢現(ゆめうつつ)。 見られた! 悪く思うな、平山五郎! 沖田は一足飛びで平山の右側(死角)へと踏み込み、一振りで首を刎ねる。 「え!?」 平山の首が鞠のように舞う。その物音を聞き、芹沢鴨の隣で眠っていた梅が目を覚まし立ち上がる。眠い目を擦りながら瞳を開いてみれば、先程角屋で一緒に酒を飲んでいた鴨さんのお仲間様が刀を持って立っていて、確か沖田さんと言う方が人の首を一刀で刎ねて……  見られた! 梅さんには酌をしてもらったこともあるし、世話にもなった関係だ! だが、見られた以上は仕方ない! 土方は片手平突きを梅の首に放ち、突き刺した後に横に振り抜く。梅は一突きで絶命。比喩を抜いて首の皮一枚繋がった状態のまま、布団に倒れる。 一瞬で平山と梅が斬り殺されてしまった…… (やば)い! 新選組の粛清に巻き込まれたようだ! 冗談じゃねぇ! 水戸天狗党時代から芹沢さんに付き合ってきたが、もう限界だ! 平間は衝立を倒し逃げにかかる、だが、外へと出る障子の前には槍持ちの原田とか言うのがいて道を塞いでいるじゃないか。 芹沢鴨は肩を竦めながら土方に述べる。
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