第三章 犬、鴨を喰らう の巻

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「女をアッサリと斬り殺しやがった。目的のためなら女子供でも殺すってのか? 士道に背いてんじゃねぇのか?」 「芹沢鴨、隊規違反につき切腹を申し渡す。他の隊士に理由は伏せておいてやる、武士の情けだ」 「フン。女を斬ったことに弁解もしねぇくせに人には腹を切ることを要求するか。とんだ武士道だな?」 何の弁解もない。だが、もう止まれない…… 松平容保公…… いや、近藤さんの命に従うのみ! 土方はまだ梅の血が拭いきれぬ和泉守兼定を芹沢鴨の肩に向かって振り抜きにかかる。 「甘いわァ!」 芹沢鴨は左手一本で持った刀で土方の斬撃を凌ぎ振り上げて体幹を崩す、それと同時に足元に落ちていた畚褌を拾い上げて地を這うような低い体勢から軽く振り抜き、土方の左手首に巻き付けて力強く引っ張った。 「ぐあっ!」 土方の左手首が巻き付けられた畚褌によって強く引っ張られると、辺りに鈍い音が響き渡る。芹沢鴨は舌打ちを放ちながら土方の胸を蹴り飛ばし転倒させた。 土方は床に蹲り、和泉守兼定も床に落としてしまい、空手となった右手で左肩を抑える。 芹沢鴨は床に蹲る土方をゴミか何かを見るような目で見下ろす。 「肩の骨って、ちょいと力入れて手引っ張るだけで外れるんだぜ? 肩の骨外れると痛いだろ? ちょっと大人しくしてろ?」 「土方!」 続けて山南も芹沢鴨に斬りかかる。芹沢鴨は畚褌を引っ張り、その勢いで拳に数回軽く巻きつけた。山南の刀が自分の頭を割らんとした刹那、畚褌を巻いた拳を振り抜いて刀を殴り払う。
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