第三章 犬、鴨を喰らう の巻

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「な!?」 山南の顔面がガラ空きとなったところで、芹沢鴨はそのまま山南の顔面を正面から殴りつけると、鼻血を流しながら床に蹲りのたうち回った後に気絶。 原田は十文字槍で芹沢鴨の腹を突きにかかる。芹沢鴨は縮地を思わせる動きで懐に入り込む。槍の流派は数多けれど、懐に入りこまれた後は不利であることを知れ! 鳩尾に刀の頭を突かれた原田は胃袋に溜まっていた酒を嘔吐しながら床に膝を突いた後に気絶。  土方さんも、山南さんも、左之助も皆達人である。それを赤子の手を捻るようにアッサリとあしらわれてしまった…… 沖田は芹沢鴨の得体の知れぬ強さを目の当たりにして体が震え上がってしまう。任務失敗を近藤さんに報告するために逃げるか? いや、それでは士道不覚悟! 肚を決める。 「芹沢鴨! 覚悟!」 沖田は自分の得意技である神速三段突きを放つと、芹沢鴨はいつの間にか持っていた自分の枕を目の前にポイと投げた。 この当時の枕は俵状の括り枕。中に入っていた蕎麦殻が沖田の神速三段突きの一突き目により舞い散る。蕎麦殻が目に入りそうになり、目を閉じた一瞬で芹沢鴨は姿をフッと消してしまう。 どこに行った!? 沖田が右向き左向きと芹沢鴨の姿を探していると、背後に生暖かい不気味な気配を感じさせた。 「ここだよ?」 芹沢鴨は畚褌で沖田の首を絞めにかかる。沖田は抵抗しようと右手に持った菊一文字則宗を振りかぶり芹沢鴨の足を刺そうとするが、その刹那に菊一文字則宗の柄頭に膝蹴りが入り手放してしまう。 芹沢鴨は沖田の耳元で囁く。 「暴れるなよ? しかし、多摩の田舎流派ってのも大したことねぇなぁ? 四人で来たのにあっというまに制圧されやがった。近藤殿とも相見えたことあるけど、大したことなかったぜ?」 「きょ、局長を…… 近藤先生を…… 多摩を侮辱することは許さない……」 「おうおう? 首絞められてるのに元気じゃねぇか?」 早くこの拘束から脱出しなければ! 沖田は芹沢鴨の脇腹に肘打ちを放つが、ビクともしない。まるで、鉄板か何かに肘打ちをしているような感覚なのである。
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