第三章 犬、鴨を喰らう の巻

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「脇腹がいい具合に解れてきたぜ? こんなこともあろうかと脇腹も鍛えておいてよかったぜ」 足を踏みつけたいが、うまい具合に踏めないような足の広がり具合。 噛みつこうにも、手は口元にない。 どうすれば、拘束する相手から抵抗を受けないか。それを研究し尽くした上での完璧な拘束を前に沖田は何も出来なかった。 「確かにお前らは強い。だけどな、俺はお前らが剣握る前から水戸天狗党で殺し殺されの中を生きてるんだ。ここ数年で人を殺し始めたようなお前らに遅れはとらねぇ。京都警護の時のように一人で集団を取り囲んで膾に出来ない狭い部屋を暗殺現場に選んだ時点で負けだったんだよ! まだまだ甘いんだよ! 年季が違うんだよ! 年季が!」 京都警護の時、新選組は一人に対して四人や五人の隊士で取り囲んで滅多斬りにすることが多い。今回もそうすれば勝機はあったのだが、芹沢鴨を泥酔させて寝込みを襲う作戦で行くと決めた時点で暗殺現場は狭い屋内になると言うことに頭が回っておらず、集団での滅多斬りが出来なくなってしまったのである。  沖田は首を絞められているうちに「死」が目の前に近づいていると感じ、首を絞める畚褌に手を伸ばして輪を広げて緩めにかかっていた。 しかし、首を絞める芹沢鴨の力は強力で僅かに緩めることも出来ない。 土方・山南・原田は床に蹲りのたうち回る。三人とも、脱臼若しくは人体急所の直撃を受けて動けない状態。首を絞められて苦しむ沖田を見ていることしか出来ない。 頸部を圧迫され、段々と体の力が抜けていく沖田。芹沢鴨はその耳元に優しく囁く。 「近藤殿の前にお前達四人の首をデーンと並べてやるよ? 俺を殺そうとした見せしめにしてやる。近藤殿は隊規一条にこじつけて切腹でも命じてやろうかな? そうしたら、新選組は俺一人のものだ」 ちきしょう…… 俺達の腕が芹沢鴨に及ばなかったせいでこんなことに! 四人は血と涙に塗れながら、絶望を噛みしめるのであった……
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