第三章 犬、鴨を喰らう の巻

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 一方、平間は遊女と共に原田が芹沢鴨に仕掛けた間隙を縫って脱出に成功していた。芹沢鴨が四人を返り討ちにしたことは知ることもなく、目の前で平山が首だけになったことですっかり臆し考えることは脱兎の如く逃げるのみ。 平山の相手をしていた遊女であるが、偶然にも厠に立っており難を逃れていた。 走りに走って辿り着いた先は正門。しかし、閂がかけられている。 ちきしょう! 早く閂を外さないと! 平間が閂を外そうと手にかけた瞬間、閂より刃が突き出してきた。 「え?」 平間は門の前で腰を抜かし尻餅をつく…… それと同時に閂も両断される。もうこの時点で閂は閂としての役目を果たさない。  その下手人は門を開けて「芹沢鴨のニオイ」があることを確認すると、尻餅をつく平間の体を飛越し、芹沢鴨のいる部屋へと疾走(はし)って行くのであった…… 芹沢鴨が沖田の首をジリジリと絞めにかかる。こういった暗殺の下手人を返り討ちにした後で、それを依頼した奴に首を送り返す時は断末魔の顔にするに限る。出来るだけ苦しんで貰おうか? 沖田くんよぉ? 涙・鼻水・涎・舌をダラァン! こうして苦しんだ顔を晒してやることで他の隊士達にも逆らわせないための牽制にもなるしな! 「芹沢ぁ! この外道が!」と、土方が叫ぶ。 「関係のない女を斬り殺した土方殿に外道呼ばわりはされたくないな? 土方殿の首を切るのは最後にしてやろう。同じ釜の飯を食った仲間が次々と首を刎ねられていく様を見るが良い!」 その瞬間、障子が勢いよく開けられた。入って来たのは犬千代である。土方は肩を押さえ、山南は鼻を押さえ、原田は腹を押さえて床に蹲り無力化。沖田も芹沢鴨に首を絞められ拘束。 犬千代はとりあえず沖田を助けなければと考え、一足飛びで芹沢鴨に向かって斬りかかる。 芹沢鴨は心底驚くも、沖田の首を絞める力を一切緩めない。 目にも止まらぬ早業、犬千代は斬撃を放ち二人の後ろへと通り過ぎた。 沖田は前のめりに倒れる。犬千代は二人の後ろへと通り過ぎる刹那の間に沖田の首を絞める畚褌を切り裂いたのである。 「沖田ァ!」 土方は意を決し、左肩を床に叩きつけて脱臼を強引に嵌めて戻す。肩を嵌めたことによる激しい痛みと、脱臼による発熱を引き起こしているが動けない程ではない。素早く沖田の元へと駆けつけ襟を引き摺って自分の元へと引き寄せた。 「沖田! 沖田! 沖田!」 土方は沖田の名を呼び起こそうとするが、梨の礫。ただ、すーすーと虫の息のような寝息は立てており死んではいないことに安堵する。
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