第三章 犬、鴨を喰らう の巻

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 終わったか。犬千代は血振りを行い、孫六井伊を鞘に納める。そして、未だに動けずにいる皆に「任務完了です。屯所に戻りましょう」と、述べた。 一部始終を見ていた土方は激しい違和感に襲われていた。土方(おれ)、沖田、山南、原田、いずれも試衛館の猛者。しかし、その猛者四人を芹沢鴨は軽く赤子の手を捻るようにあしらった。神道無念流免許皆伝の剣術と言うよりは、生き延びるために相手を殺す喧嘩殺法の前に手も足も出なかったのである。抵抗は激しいものだった…… だが、犬千代の乱入によって全てが変わった。なんと、芹沢鴨は無抵抗のままに斬られたのである。 確かに犬千代は試衛館勢の誰もが認める強さを持つ。だが、大差があるとは思えない。 土方(おれ)の目測では、犬千代でさえも芹沢鴨が行う喧嘩殺法の前には手が出なかっただろう。俺達が何も出来なかったのだから…… ところが、芹沢鴨は無抵抗。刀の切っ先を犬千代に向けることなく、そのまま黙って斬られてしまった。 その違和感の正体を確かめるために、土方は屯所(前川邸)に戻るなりに道場へと駆けつけた。道場では近藤勇が素振りを終えたのか、中央で座禅を組み黙想を行っている最中。 近藤勇はその気配に気が付き、パチリと目を開ける。
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