第三章 犬、鴨を喰らう の巻

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「五番隊、武田観柳斎!」 場が水を打ったように静まり返る。武田さんは剣の腕はそこそこ、どちらかと言うと軍学畑の人だ。隊の陣形配置や、大砲や銃の扱いを専門とする。 そういった意味の起用もあるのだなと隊士は納得するのであった。 「六番隊、井上源三郎!」 試衛館組の中では最年長。剣の腕こそあるが、寄る年波には勝てないのか、練習では簡単に一本を取られ、任務に出ても勤王志士に斬られる斬られないとハラハラさせられる事が多い。だが、最年長故にこれを言うことも出来ない。「井上源三郎は老害」と侮辱した隊士がいたのだが、近藤勇に呼び出されて一刻近くも説教をされたという。試衛館贔屓の残滓と納得する隊士が多い。 「七番隊、谷三十郎!」 三兄弟で新選組に入ったうちの長男が組長になったのか…… 隊士からすればそれぐらいの扱いである。近藤さんに何かと話しかけヨイショしている姿を見ることが多いことから、媚を売る奴ぐらいにしか隊士からは思われていない。ただ、何かと金遣いが荒いと噂が出ている故に土方さんに知られないように頑張ってくださいとしか言いようがない。不必要な金策は即切腹なのだから…… 「八番隊、藤堂平助!」 藤堂さんは強いは強いが、試衛館の中では下位。近藤さんが役職を与えたといったところだろう。隊士の認識はその程度であった。ただ、藤堂は人当たりが良く悪く思う者は少ない。この人選に納得する隊士は多い。 「九番隊、なし!」 九番隊がないのは縁起を担いでいると言ったところだろうか。ただ、四番隊があるのは「死」に対する覚悟は出来ているという意味なのだろう……  隊士達は()るしみたくはないが、()んでも構わないと言う近藤勇の意思を感じるのであった。 「十番隊、原田左之助!」 試衛館勢で末席の隊長。原田さんも近藤さんが役職を与えたといったところだろう。 それでも京都に来てから入隊してきた隊士の九割九分よりは余程強い。納得の人選である。
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