第四章 池田屋事件! の巻

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 そうは言われても、吉右衛門は猿轡をかけられ喋ることが出来ない。もう嫌だ! 助けて欲しい! このまま拷問の末に死にたくはない! 激しく頷くことで降伏を宣言する。 猿轡を取られた吉右衛門は土方に向かって述べる。 「お、お前は鬼か……」 拷問を行っていた隊士達は土方のことを「鬼の副長」と渾名しており、間違いないと苦笑いを浮かべてしまう。 「余計なことを言うな。まず、名前からだ。桝屋吉右衛門は偽名であろう?」 「う…… うぅ…… 古高…… 俊太郎……」 古高俊太郎と言えば、攘夷の急先鋒である有栖川宮様と長州藩を繋ぐ過激派勤王志士の大物じゃないか。表の顔は骨董商桝屋吉右衛門として、幕府の目を欺いていたと言う訳か! 許せたものではない! 土方は思わず平手打ちを放ってしまう。近藤勇がそれを咎める。 「歳、落ち着け。せっかく拷問から開放したのに殴ってどうする」 「すいません。つい」 古高俊太郎は「計画」について話し始めた。 「ご、御所を襲い…… 天皇様を長州へとお連れし…… 我々を皇軍とする詔勅をお出し頂き……」 八月十八日の政変で京の都より追い出された長州藩が無茶なことを考えたということか。 皇軍となり錦の御旗を掲げて、幕府を賊軍としようとは…… けしからん奴らだ! 万死に値する! 近藤勇と土方は舌打ちを放つ。 「それで! どのように御所を襲うのだ!? 言え!」 「ろ、六月の下旬…… 風の強い日を狙って…… 御所に火を放つのだ…… 京の都にも火を放ち…… その混乱に乗じて…… 松平容保のような佐幕派を暗殺し…… 天皇様を長州へと……」 何という奴らだ。腐れ外道の野蛮人の所業ではないか! 今すぐにでも斬り捨てて八つ裂きにして五条河原で晒し者にしてやらねばならぬ!  しかし、まだ話を聞かねばならぬ故に近藤勇も土方も怒りを堪え、耐え忍ぶ。 「そ…… その作戦会議は『池田屋』か『四国屋』で行われる…… お前達みたいな幕府の犬に特定されないようにどちらで行うかは…… その日の気分で…… 決まる…… 今は、俺もどちらで行われるかは…… 知らない……」 もう、古高俊太郎から得られる情報は全て得た。これ程の大物であれば、救出をしに屯所まで殴り込んでくる過激派尊王志士がいるかもしれない。だが今は御所が、京都が炎に包まれんとする時故に考えている暇はない。 近藤勇は朝一番単身馬を駆り、京都守護職に長州藩士が企てる御所の焼き討ち作戦を伝えるのであった。
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