第五章 犬と龍と海と春 の巻

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 毎日、誰かが切腹させられている現状を見れば心が萎えてくると言うもの。 総長の山南は土方に「厳し過ぎるのではないか?」と嗜めるが、池田屋事件の功績で御家人に取り上げられたことで身も心も本物の武士(さむらい)気取り。「武士たるもの、このぐらい厳しくなければいけない」と聞く耳を持つことはなかった。近藤勇に相談をしても「歳に任せている。歳が上手く纏めてくれている」とやはり聞く耳を持たない。 そもそも、山南は池田屋事件当日は体調不良で不参加。屯所にて床に伏せていただけ。 それにも拘らず武士として取り立てられているために「幹部なのに、何もせずに武士になって恥ずかしくないのか」と不満を持つ隊士は少なくない。なお、それを宣う隊士であるが食あたりと夏バテで屯所で床に伏せており「何もしないのに武士になれた!」と増長し気が大きくなっている。 こんな屍山血河を地で行く新選組であるが、不思議なことに門を叩く者が多い。池田屋事件の功績で得た金看板による憧れと、隊規を甘く見ていることと、給料の高さが引き寄せるのだろうか。 一番下っ端の平隊士の給料でも月給十両(現在の百万円)に加え過激派勤王志士を捕縛・斬殺した人数での出来高払制。 刀一本で身を立てられると信じている者達からすれば、夢のような職場である。 だが、その夢も厳しい隊規によって露と消える者が多い。
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