アナスタシアの成功

2/2
前へ
/55ページ
次へ
俺はマールさんに向かって頭を下げた。 その日から、俺は厨房にこもって、次から次へと出されるレシピのケーキ作りに追われた。 それから少しして。 俺は、その日もマールさんに渡されたレシピのケーキを作り続けていた。 何故か、誰も何も言ってくれねーが、まだ修行し始めたばかりだし、特にこれといって、上達してるところがねーんだろ。 ディランとイライザは、2人仲良く(俺には、そう見える)足りなくなってきた材料の買い出しに行っていた。 客が来たのか、マールさんの愛想の良い声が聞こえてくる。 『いらっしゃいませ』 当然フランス語だから、会話の内容までは、俺にはまだ早口という事もあって、わかんねー。 と、いけねーいけねー。 ケーキ作りに集中しねーとな。 『ここのケーキ、最近、前より美味しくなったから今日も買って行くわ』 『メルシー。このショコラケーキは、如何ですか?私の自信作なんですよ』 『店主、腕上げたんじゃない?じゃあ、ショコラケーキとチーズケーキを貰おうかしら』 『毎度あり!どっちも、私が最近、改良を重ねたケーキで、お勧めしますよ』 俺は知らなかった。 常連客の買ってったケーキが、どれも俺が作ったモンだという事に。 アナスタシアは上手くいっている。 だが、その栄光は、俺がマールさんに支配された上での成功だという事に。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加