避行前夜

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「……何だ」 「やっぱり、お前が一番綺麗だって思って」  そう言うと彼は、空いた手で俺の背中を探りだした。 「…っ、やめてくれ、そこは」 「ん?」  ユリスは悪びれもしないで俺の翅の付け根を撫でる。  彼は、ここが一番敏感だとわかってわざとこうする。周りにバレないようにそれをやり過ごすのがどれだけ大変か、わかってないだろう。  ……それでも俺は、本気でやめてほしいと思ったことはないのだが。 「……綺麗だ」  俺や彼、そしてこの大部屋にいる兄弟全員に等しく生えた、一度切りの婿装束。  この翅がなければきっと、もっと近くで体を合わせられる。でも、これをきっかけに俺たちは、互いの愛と欲の在処を理解した。  翅の膜にユリスの息がかかる。 「本当に。他のコロニーの花嫁なんかに、持っていかれてたまるか」  翅と体全体が痛んだ。  俺だって同じ気持ちだと返せば、兄はやっと満足したみたいに腕の力を抜いた。
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