避行前夜

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避行前夜

 ドサッ、と、重い物が地面を打つ音がした。  目が覚めて、音がしたほうを見る。大部屋の反対の壁沿いで、図体のでかい兄弟が寝返りを打ったところだった。  兄弟は眠ったまま手を伸ばし、背中に生えた真珠色の翅をかいた。  呑気なものだ。  また目を閉じようとした時、背後から囁き声がした。 「カインも起きたか」 「……仕方なく、だ」  背中の翅を下ろして後ろを向く。真珠色の膜の向こうから、隣で眠っていたはずの兄・ユリスの顔が覗いた。 「つれないことを言うな」  吐息半分に耳をくすぐって、彼は腕を伸ばしてくる。  すぐに自分の腕を取られ、引き寄せられる。 「な? せっかくの二人だけの時間じゃないか」  そう言われると俺も拒否できない。  他の兄弟は皆、意識なく固まっている。男が行ける場所など限られているこのコロニーで、他人の邪魔が入らないのはこんな時くらいである、その事実は否めない。  ユリスの表情が緩んだ。
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