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2日:命日おめでとうございます
どれくらいの時が経ったことだろうか。
真っ暗闇の中微かに声が聞こえた。
お経………だろうか?
妻に逢いに何度もお寺に足を運んだのだから間違えようもない。
これはお経だ。
私の葬式だろうか?
まだ声が聞こえるとはなんとも不思議な。
徐々に声も大きくなり、お経が近づいてくる。
なんだか目の前も明るく感じる。
眩しい。
死ぬと三途の川を渡ると言うが、三途の川にでも辿り着いたか?
とにかく光とお経が眩しく、うるさい。
「うるさいぞ」
つい声が出た。
「あぁ。お目覚めになられましたか」
目を開けると覗き込むようにお坊さんがこちらを見ているではないか。
ゆっくりと起き上がると、眩しさにも目が慣れた頃…目の前に映りこんだのは…
「なっなな何故だ。私はっ確か死んだはず。何故。何故ここに…それにお前は…」
「ふふっ。お久しぶりですね」
ふんわりと笑った目の前にいるお坊さん…木蔵 八喜(きくら はちき)は……
「「5年前に死んだはずだろ?」」
「と言いたいんですよね?」
八喜と声が重なり、笑顔でこちらを見る。
「どういうことだ。なぜ八喜さんが…何が起こっている」
「まーまー。落ち着きなさい。あなたは死んだ。それは確かです。落ち着いて。ここは夢でもなんでもない私達からしたら【現実】なのです」
とにかく落ち着くために深呼吸をする。
だがそれでも受け入れにくい【現実】だ。
まったく何がどうなっているのか…
「いきなり知っているところで横になっていて目が覚めたら「死んでますから」と言われても実感もないでしょう。それでもいいです。私達は確かに死んでます。でもこうして生きている。いや。【生きている】はおかしいですね。まぁー…詳しい話しはもう少し落ち着いてから。今日はとにかく暇でね。ちょうどよかった。久しぶりにゆっくり話をしましょう」
ゆっくりとした口調。
あんなに驚いていたのが嘘のように彼の言葉が自然と耳に入ってくる。
相変わらず落ち着く。
八喜に支えながら体を起こし、座った。
「ここではなんですから。居間に行きましょう。ゆっくりするといいです」
ゆっくりと支えられながら立ち上がり、居間に通された。
本当に知っているお寺と一緒だ。
夢では無い。
とにかく八喜に話を聞いた方が早いだろう。
用意された座布団に座るがどうも感覚がおかしい。
「違和感を感じておられるようで…話の前にまずは…【命日。おめでとうございます】」
と数珠を擦り合わせながらお辞儀をされた。
ニコニコとしている八喜の言葉に意味がわからず「命日おめでとうとは?」と返さずにはいられなかった。
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