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財部 宗介
『どんなに小さな声でも大切にしたい』
開校記念日に「受験勉強の息抜きだー」なんて言って、友達と連れ立って観光地に出かけた。
その時にすれ違った"制服姿の女子"のその言葉は、20年経った現在でも色褪せる事なく俺の中で輝き続けている。
歌で例えると"心に引っかかったワンフレーズ"みたいなもの。
プライベートでも仕事でも、常にこの言葉を大切にしながら過ごしてきた。今の役職に就けたのは、きっとそのお陰だと思っている。
「ゼネラルマネージャーの日吉恵と申します」
「財部です。よろしくお願いします」
取引先のプロジェクトリーダーは俺より3歳下の有能な統括部長だ。
「女上司はやりにくい」「女には荷が重い」などと今でも時代錯誤な事を言う輩は少なくないが、俺は素直に凄いと思う。
髪にも爪にも服装にも、完璧に手入れが行き届いている。かと言って気難しい雰囲気は一切なく、笑顔はとても優しく親しみが持てる。
「どんな些細な事でも、お気付きの点がございましたらご教示ください」
最後に日吉さんがそう言って、ミーティングは終了した。
慣れない場の雰囲気に終始物怖じしていた自身の3人の部下に退室を促しながら、日吉さんは笑顔で声をかけた。
「みんなもだよ…たった1人のどんなに小さな声でも大切にしたいの、私」
その瞬間…君に出会えたのは運命だと、そう思った。
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