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その後、きらりちゃんがどうなったかは分からない。私らがチェックアウトの時には既に彼女はホテル出た後だったので、確認が出来なかった。
帰りのバスで昨晩の話を聴いた健史は、声を出して笑っていた。ニュースになるんじゃないかと心配してい女の子がサンタクロースのコスプレをしてたこと、私が酔った勢いでまんじゅうを注文したこと、サンタクロースが健史に刺されると言ってたこと、真っ暗な部屋に入ってナイフを突きつけられたと勘違いしてしまったことが、可笑し過ぎるらしい。こんなに笑う人だと思ってなかった。本当のことを話せたことで、心の重荷が下ろせたからだろうか。
「アハハハッ。で、そのきらりちゃんだっけ?まんじゅう五十個どうしたんだろうね?東京へ持って帰ったのかな?」
「さ、さぁ……」
「和菓子屋さん、彼女と復活してちゃっかりまんじゅうを持ち帰って、又店に並べてたりして」
「えっ……」
それでもいい。二人のきっかけになれば。
「俺、心配なんだ。仁美ちゃんはいちいち親切過ぎるからさ。今度から何かあった時、いや、特別何かなくても、まず俺に話して」
健史は私の手を握りながら真剣な顔で言う。年上なのに、そんな心配をされるのか?
「私って、年のわりに危なかっしいかな?」
「仁美ちゃんは、俺に対していつも年上だからと思ってるでしょ?実は俺は全然思ってないんだ。普通の可愛い女の子だと思っているから、守ってあげたい」
空耳かと思ってしまうような言葉に、胸がジワリと熱くなる。
「ありがとう」
帰りは窓側の席に座っていた。窓に映る景色は、真っ白の雪に陽の光が反射してキラキラ輝いていた。どこまでもどこまでも続く白銀の世界が、暖かく優しく包みこんでくれる。誰かさんみたいだな、と思うと鼻の奥がツーンとしてきた。
景色に見惚れていると、身体ごとぐいっと通路側に抱き寄せられた。窓に映った光る涙を、彼は見逃していなかった。
《了》
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