健史の視界に映る仁美

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   当時、俺には結婚しようと思っていた相手がいた。  同じ職場の一つ下の後輩で二年付き合っていた。職場恋愛ゆえ周囲には内緒にしていたが、親には紹介していて来年式を挙げようと思っていた。その彼女の口から信じられないことを聴く。俺以外に付き合っている人がいて、その相手の子供を妊娠し結婚することになったと。二股して悪かった、クリスマスは一緒にいられないと。  事態が呑み込めず、最初は何のことを言ってるのか解らなかった。  よく話を聴いてみれば、二股期間は一年近くにも及んでいた。気づかなかった。強いショックと怒りで妊娠している彼女を怒鳴った。怯えた彼女を見て我に返ってから、考え直すよう宥めて説得してみたが駄目だった。彼女は俺よりもその相手が好きだと言っていた。  初めて人が憎いと思った。
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