健史の視界に映る仁美

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 翌週、職場で彼女が結婚するという報告を聞かされる。皆がおめでとうと拍手をして花束を渡し祝福をする。俺は離れたところで呆然と立ち尽くすしかなかった。  職場は地獄と化した。  気力が全く湧かず、一週間仕事を休んで寝ていた。来週も休むなら診断書が必要だ。持病のアレルギーで書いてもらおうと耳鼻科へ行き、ドラッグストア内にある調剤薬局で薬を待っていたら、クリスマスツリーが目に入った。黄色の電飾がパッパッと明滅していた。  ついこの間まで、結婚したら大きなツリーを家に飾りたいと愛らしい笑顔で言っていた彼女は、もうすぐ違う男と入籍をする。やり切れなかった。気がついたら膝の上に染みが出来ていた。止めることが出来なくて次々と出来てしまう。鼻水まで出てしまった。慌てて鞄からティッシュを取り出そうとするも生憎無かった。BURBERRYのハンカチはあるが、これで鼻をかむのは抵抗がある。強いショックを受けて呆然自失の癖に、そこは冷静な自分が可笑しく泣きながら笑いそうになった時、未使用のポケットティッシュを前方から差し出された。
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