健史の視界に映る仁美

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   それからしばらくは、地獄へ通う為に、俺の頭と身体は機械だと思うようにして仕事をした。人間のままでいると醜い感情が大渋滞してしまう。  しかし、元彼女とはデスクは離れていたものの、視界の隅に違う苗字で呼ばれ喜々として振り向く姿がチラつき、しばし激しく動揺した。年明けからマタニティウェアを着て出勤する姿を見かけ、別れる際の会話を思い出し頭が沸騰しそうになる。俺は機械になれなかった。元彼女の幸せを願えない自分を呪った。    そんな日々だったが、春に結婚相手が転勤になったらしく退職してくれた。  俺はようやく、開放された。
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