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「仁美ちゃん、クリスマスは温泉でいい?」
「……えっ?……温泉?」
初雪が降って一面が白い世界に変わり、冬の訪れを実感した頃、恋人の健史のマンションでコーヒーを飲んでいたら唐突に言われた。
今年のクリスマスは土日だ。お泊まりになるだろうと期待はしていたが、和風プランの提案に少しだけがっかりしてしまった。しかし海の幸がとても美味しい温泉ホテルで、彼の上司が激推していると聴き後から賛成した。
彼の生活は派手ではないものの、本物志向であり食もグルメだ。何度かデートで連れて行ってもらったお店は、どこもプロ意識の高い料理を出してくれるところだった。上司の薦めであれ、彼が決めたホテルならきっと当たりだろう。
ホテルの公式Webページを見たり、着ていく服を新調するなど仁美は胸を踊らせて準備をしていた。しかし高揚した気分と反比例するかのごとく、天候は下り坂に向かっていた。それも三日前からは当日まで大雪が予想され、彼の車で行く予定が急遽バスに変更になった。
バスは直行便がないため、目的地まで四時間はかかる。大雪を考えるとプラス一、二時間はかかりそうだ。付き合い始めてもうすぐ二ヶ月になるが会話という点ではまだぎくしゃくしていてたので、彼とバスに長時間乗ることに少々不安があった。同じ車内でも、自家用車なら密室だから部屋の延長線上で、恋人ムードでいれば大して会話は要らなかったが、周囲に他人がいるようなバスはそうもいかない。
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