健史の視界に映る仁美

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   気持ちが軽くなったのをきっかけに、ティッシュをくれた名も知らぬ彼女に、iPhoneの画面を割ってしまったお詫びをどうにかできないものか、考え始めた。  家が近所なのは分かるが、それ以上のことは分からない。所謂、無理ゲーというものなのだが、クリアする為に頭を使うことが楽しく、心の支えになった。  親しくなる方法はないものか。  それから俺はドラッグストアではなく、同じ敷地内のスーパーへ仕事帰りに毎日通い、彼女が来る日を待った。土日は一日三回通った。何の都合かは分からないが、水曜の夜と日曜の昼間に高確率で来ることが分かった。  視界に入る仁美ちゃんは、見知らぬ人によく親切にしていた。天性の世話焼きなのだろう。高い位置にある商品を取れないお婆さんに取ってあげたり、段差のあるところで買い物カートを持ち上げてあげたり、ベビーカーを押す人の為にドアを開けてあげたりしていた。この子は優しい、そう確信した。彼女を見ていると心にポッと火が灯る。  目で追ううちに、俺は彼女を好きになっていた。    
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