仁美、サンタクロースに会う

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   仁美はホッと胸を撫で下ろした。思いつめているわけではないようだ。 「へ〜っ、すっごいね〜!私、YouTuberって初めて会ったよ」 「身近にいませんか?ゲーム実況の配信者とか?」 「いない、いない」  夏まで働いていた堅い職場を思い出す。あそこには確実にいないだろう。今の職場の派遣先の人達とは私的な交流はなく、素性がよく分からない。 「とりあえず、乾杯しない?」  彼女に先ほど買ったビールを渡す。気持ちよく受け取ってくれた。 「カンパーイ!」 「カンパーイ!」  サンタクロースがグビグビ飲む。良い飲みっぷりだ。  彼女は本名もきらりという名前で、本業は大手の正社員らしい。副業で配信をしているようだ。賢くて器用な子なのだろう。今のところ会社からお咎めは無いらしいが、同僚からの冷やかしはあるようだ。 「冷やかされるだけあって、企画自体が痛いものがメインなんです。今回もクリスマスイヴに独りで海の幸を食べようって企画で、彼氏のいない女子にはウケますが、だんだん私自身もそのキャラになっていってしまってて、これでいいのかな?なんて考えるんですよ」  ビールを片手に、YouTuberとしての悩みを語り始めた。 「それはキツいね。なりたくない方向に自分が引っ張られるのって、嫌だなぁ……」 「……そうですね」
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