仁美、サンタクロースに会う

4/6
前へ
/41ページ
次へ
   私は夏までは、とある法人の職員だったが、パワハラが原因で退職し今は派遣社員だと言った。 「直属の上司は同期だったからね、悔しい気持ちは今でもあるの。あのやろー!と思うよ。でもそれ以上にすっきりしてる気持ちもあるの。退職後の方が、かけがえのないものに巡り会えたから……」  私は健史のことを前より好きになっている。彼との出会いを得られたのは退職したからだ。人生何が幸いするか分からないと聞くが、その通りだ。自分の気持ちに一段と整理がついて前に進めた気がして、気分良くビールをゴクゴクと飲む。爽やかな苦味が喉元を通り過ぎていく。 「それって、彼氏さんですか?」  ブホッホッ。ビールを噴きそうになった。身体が火照り暑くて羽織を脱ぐ。彼女は勘の良い子だ。 「う、うん。その通り」 「やっぱり何か失わないと、得ることは出来ないのかなーっ」    サンタクロースが畳で大の字になり悟りを開く。 「物事によるかな……。なんてね」  この子よりは年上だけど、だからと言って私が人生経験豊富かと言えば、そうではないだろう。偉そうなことは言えない。 「私は、YouTubeやり始めてから彼氏と上手くいかなくて別れたんですよ」  身体を起こして彼の話をし始めた。私はビールの缶をテーブルの上に置いた。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加