増幅されていくもの

8/9
前へ
/41ページ
次へ
   私は彼を強く抱きしめて、深く息を吸って彼の匂いで肺を満たしてから言った。 「健史くん……あのね、私は健史くんの過去を勝手に想像して嫉妬してしまうくらい、今は好きだから。今更さようならとか言ったって認めないから。私がスーパーに張り込みするから。私がドラッグストアでぶつかるから……私が……私が……」  溢れた思いが言葉にならなくなってしまったと同時に、落ちた雫で頬が濡れていく。  抱きしめていた私の腕は、ゆっくりと振り解かれる。身体がふわりと宙に浮いた。初めて男性にしてもらったお姫様抱っこで、奥の部屋へ連れていかれた。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加