31人が本棚に入れています
本棚に追加
翌朝、ホテルの人が朝食の部屋へ案内してくれた。二人とも浴衣のままで食べに行く。バイキングではないのに品数が多い。蟹の味噌汁、焼き魚、煮魚、だし巻き玉子、温泉玉子、サラダ、牛乳、手作りプリン、コーヒーなどなど。
「朝からまたご馳走だね〜。皇室の朝ご飯みたい」
「ははは。よく分からないけどそうなのかな」
「帰ったらホテルの口コミは私が書いていい?良いことた〜くさん書きたい。ご飯は最高レベルだし、温泉はお肌がつるつるになるし、大好きな人と忘れられない思い出が出来たし。長くなっちゃうなぁ。文字数足りるかな?」
彼の頬が染まる。照れた顔がカッコいい。また好きが増幅されていく。
「……うん。書いて」
「前から思っていたけど、健史くんって本物志向というか何でも選ぶもの、センスが良いよね。日々の暮らしもそうだけど、外食のお店選びとか今回の旅行もさすがだなと思う。過去の恋愛もきっと、カッコ良かったんだろうな。あっ、朝から詮索好きのおばちゃんみたいでごめん……」
無遠慮に触れてしまった。年上の自分が少しだけ嫌になる。
「……ようやく、本物に辿りついた」
「…………?」
彼が手作りプリンをスプーンで掬う。あれ?甘いものはあまり食べないって言ってなかったっけ?
「仁美ちゃん口開けて」
「……えっ?」
とろけるような甘さが口の中に拡がる。三十二歳でこんなことされるとは。飲み込んだ後、恥ずかしくて可笑しくて笑ってしまった。
最初のコメントを投稿しよう!