増幅されていくもの

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   翌朝、ホテルの人が朝食の部屋へ案内してくれた。二人とも浴衣のままで食べに行く。バイキングではないのに品数が多い。蟹の味噌汁、焼き魚、煮魚、だし巻き玉子、温泉玉子、サラダ、牛乳、手作りプリン、コーヒーなどなど。 「朝からまたご馳走だね〜。皇室の朝ご飯みたい」 「ははは。よく分からないけどそうなのかな」 「帰ったらホテルの口コミは私が書いていい?良いことた〜くさん書きたい。ご飯は最高レベルだし、温泉はお肌がつるつるになるし、大好きな人と忘れられない思い出が出来たし。長くなっちゃうなぁ。文字数足りるかな?」  彼の頬が染まる。照れた顔がカッコいい。また好きが増幅されていく。 「……うん。書いて」 「前から思っていたけど、健史くんって本物志向というか何でも選ぶもの、センスが良いよね。日々の暮らしもそうだけど、外食のお店選びとか今回の旅行もさすがだなと思う。過去の恋愛もきっと、カッコ良かったんだろうな。あっ、朝から詮索好きのおばちゃんみたいでごめん……」  無遠慮に触れてしまった。年上の自分が少しだけ嫌になる。 「……ようやく、本物に辿りついた」 「…………?」  彼が手作りプリンをスプーンで掬う。あれ?甘いものはあまり食べないって言ってなかったっけ? 「仁美ちゃん口開けて」 「……えっ?」  とろけるような甘さが口の中に拡がる。三十二歳でこんなことされるとは。飲み込んだ後、恥ずかしくて可笑しくて笑ってしまった。
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