温泉で過ごすクリスマス

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 バスが終点のターミナルに着くと、ホテルの従業員さんがマイクロバスで迎えに来ていた。乗車したのは、私ら二人だけだ。雪で作られた巨大な迷路のような路をくねくね曲がって進む。本当にこの先にホテルがあるのかと不安に思うくらい雪深い路だった。今は晴れているが、吹雪くとあっという間に遭難しそうなところだ。 「いやぁ、まいりましたよ〜、この大雪ですからね、クリスマスだというのにキャンセルが相次いでまして……」 「……えっ?そうなんですか。それは痛手ですね」  健史は振られた話題に共感し、愛想良く言葉を返す。当たり前か、公務員として仕事をしているのだから。女の人ともこれぐらいスムーズに会話をすれば、私なんかよりももっと良い人と付き合っているか、とっくに結婚していただろう。饒舌な健史が別人に見えた。  赤茶色の屋根の大きな建物にマイクロバスは吸い込まれた。
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