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国王と王妃に挨拶を早々に済ませて、王宮を出た。引き止める言葉も、今までの功績を褒めるでもなく数分もかからずに終わった。それで良かったのだ。
この後、国がどうなるのか胸を痛める必要もない。転移魔法で空中都市の門扉前に飛んだ。
聳え立つ銀色の門は、レリーフや装飾が凝っていて美しい。
手続きをすませるのに、時間がかかって気づけば門扉が閉まるギリギリの時間になった。結局、アシュトン様をお誘いすることはできなかったけれど、それで良かったのよ。
むせ返るようなオレンジ色の夕焼けが美しく、自分の中で心が動いたことが嬉しかった。これからは顔を上げて、楽しもう。
あの国での全てを忘れて──。
巨大な門扉が閉まる寸前、誰かが私の名前を呼んだ気がした気がして振り返ったけれど、分厚い門が閉じた後だった。
『オレーリア様』
一瞬アシュトン様の声がしたような?
気のせいね。荷物はすでに部屋においてあるし、夜にはウォルトと食事の約束がある。そう思って街に向かって歩き出した時だった。
ギギギギ……と閉まった門が開く。
そこには血塗れのアシュトン様の姿があった。
「え」
「オレーリア……様」
アシュトン様は駆け寄ると私を抱きしめるような形で倒れ込み、膝を突いた。彼がこの都市に入るためには、魔法塔からの認可が必要だったはずだ。
いやそれよりも傷の手当が先だと治癒魔法をかける。淡い光によって、彼の額から流れ落ちていた血が止まった。
「一体何が!?」
「……クローディア様の形見を、やっと貴女にお戻しできる。本当はもっとたくさんの遺産があったのですが、取り返せずに申し訳ありません……」
「え……」
クローディア。私の母の名前だわ。
アシュトン様の手に握られていたのは、お母様の……首飾りだった。
「どうして……これは没収されて……」
「取り返すための取引材料が《隷属契約》でした……」
お母様の形見を取り戻すために、《隷属契約》を?
「そこまでするのは……騎士として?」
「クローディア様が病死される前に、私の叔父にオレーリア様をお守りするように、命じられました……しかし……叔父も遠征で亡くなり……私は……。叔父の意思を継ぎましたが…………貴女に惹かれて……っ」
「アシュトン様……もう喋らないでください。傷口が……」
「…………っ」
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