大好きな騎士団長様が見ているのは、婚約者の私ではなく姉のようです。

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 最後のほうは声が掠れて聞こえなかったけれど、アシュトン様の覚悟はひしひしと伝わってきた。意識を失ったアシュトン様が私に覆い被さり、その時に唇が微かに触れる。微かに触れただけなのに、心臓がバクバクと音を鳴らしてうるさい。  それからすぐに衛兵さんたちが手伝ってくれて、彼を都市病院に運んでもらった。偶然触れただけなのに、唇の感触がいつまでも残っていて忘れられない。  こんなことでアシュトン様への気持ちが復活するなんて、我ながら単純だわ。  ***アシュトンの視点***  叔父はクローディア様の護衛騎士だった。そして当時私は見習い騎士として、オレーリア様の傍で従者の真似事をしていた。  あの頃は、宮廷内も穏やかで明るかった。側室のエリザベート様が王子たちの教育に熱心で、離宮からでなかったからでもあったのだと思う。  オレーリア様は幼い頃から魔法の才能があり、青い蝶を再現しては私に見せてくれた。愛らしくて、心優しいオレーリア様が大好きで、この方に剣も心臓も捧げると心に誓った。  結婚式ごっこで私を選んでくれたことも嬉しかった。まあライバルとは彼女の抱き枕の黒猫なのだが……。  僅差で私が勝ったらしい。お転婆で好きなことに夢中になると本人が納得いくまで調べ続けた。しかも八歳でさまざまな言語を理解して、いかなる文字も読み解ける天才だった。彼女の能力の高さが悪用されることを叔父とクローディア様は懸念していた。 「いずれこの子の能力に気づいた者が悪用しないように、アシュトン、どうかこの子を導いてあげてくださいね」 「はい。私の全身全霊をかけても、オレーリア様をお守りします」  そうクローディア様と叔父の前で、誓ったのだ。誓ったのに……っ。  クローディア様が病死して、叔父が後ろ盾になろうとした矢先に事故死。オレーリア様の傍にいるために侯爵家の力を使っても、全ての悪意から守ることはできないどころか、敵は的確に私の弱みを握り契約を持ちかけてきた。  オレーリア様に危害を加えないこと。婚約者として傍にいること、亡きクローディア様の形見を正当な所有者に返却することを条件に《隷属契約》を選んだ。  それすら現王妃の罠だったと知ったのは、しばらくした後だった。オレーリア様は私のことを覚えておらず、騎士として出会ったと思い込んでいた。
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