大好きな騎士団長様が見ているのは、婚約者の私ではなく姉のようです。

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 度重なる不幸に耐えきれず、記憶を消したのだろう。私のことを忘れてしまったのは悲しかったけれど、オレーリア様の生活を守ることだけに尽力した。しかし狡猾な王妃の策略に、何度もオレーリア様に悲しい顔をさせて──私は騎士失格だった。何度、叔父とクローディア様の墓標の前で謝罪の言葉を口にしただろう。私には貴女に笑いかける資格などないのに、諦めきれずに貴女を思い続けてしまった。 「オレーリア様……っ、」  私がオレーリア様を思えば思うほど現王妃が酷いことを考えて、彼女の心を抉る。本当はもっと傍で貴女を存分に甘やかしたかった。  もっと笑って、怯えも苦しみも悲しみも取り払った場所に……貴女を魔法塔に連れ出したいと言ったら、受け入れてくれるだろうか?  あそこならオレーリア様の能力を生かしつつ、庇護下に入ることだってできる。推薦状を用意して、あと私にできることはあるだろうか。  あの方が笑えるような居場所を、私が用意できれば……あの方の逃げ道だけ。  愛している、と告げることも許されない。  脆弱で、愚かな私とは違って、オレーリア様が自分の口から魔法塔に行くと行った時、嬉しくてなんと言葉を返せば良いのか分からなくなった。「私も一緒について行きたい」とは口が裂けても言えなかった、言えるはずもない。今まで散々、オレーリア様を傷つけた私を貴女は許さないだろう。当然だ。許されるわけがない。けれど、あの方の物を返させてもらう。  ***  まだ日はでているのに、王城内は闇の帷が降りたように薄暗い。澱んだ空気が充満しているようだ。別空間、いや結界の中か。発生源はおそらく……。 「お前の探し物はこれか?」  美しく煌めく空を閉じ込めたようなネックレスを見て、全身がカッとなった。それはあの方が持つに相応しい物。 「……出たな。魔術師」  闇の中から姿を見せたのは、床に付くほど長いローブを纏った男だった。影のある顔にはありありと敵意が向けられる。この男がクローディア様と叔父を呪い殺した元凶であり、王妃の剣であり盾。私に結んだ《隷属契約》もこの男の発案だったのだろう。 「契約解除おめでとう。最高に良い舞台だったよ。私の求愛を拒んだクローディアも、その騎士も、娘も不幸になる。騎士として守るはずだったお前が、あの娘を苦しめて最高だった」
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