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「その茶番も今日までだ。契約通り、そのネックレスを返してもらおう」
「そうだな。約束通り、お前に返そう」
適当に放り投げたネックレスは弧を描き地面に落ちる。その前に両手でネックレスを受け取った。ああ、ようやくクローディア様の形見を、オレーリア様にお返しできる。
受け取った瞬間、床に数十の魔法陣が展開。
逃げる暇も、防御も間に合わず──爆音は轟いた。土煙と壁が崩れ落ちる音の中で、魔術師の高笑いが耳に届く。
「バカが! 罠に決まっているだろう! これだから脳筋の騎士は! 魔術師は術式を組み替え紡ぐ芸術品。特に人を傷つけて、壊すことこそ究極の美!」
「────っ」
「殺しはしないさ、《隷属契約》が切れた後は、お前に惚れ薬を飲ませる計画だからな!」
ポタポタと絨毯を血で汚すが、手にしていたネックレスが本物であるのを確認して、ホッとした。最初から一撃はくらうつもりだったが、思いのほか反射魔法防御が間に合ったようだ。
なるほど。一度契約を切ったのは、惚れ薬でオレーリア様への思いを上書きする気だったのか。
「くだらない」
「なっ……バカな」
魔術と魔法の違いは、体内に魔力器官があるか、ないか。内側から魔力を練り上げて解き放つ威力は、魔術の数倍。
魔法は生まれた時から神々から贈られるギフトの一つ。だからこそ魔法塔は、魔法使いを保護するため、その力の使い道を導くために設立した。
「ところで……。今のが、全力か?」
「なっ……ありえない……。直撃して五体満足でいるはずがない……」
「ああ、そういえば私の力をあまり王都では見せていなかったな。情報規制を徹底しておいて良かった」
今までは補助魔法の《肉体強化》ばかりを使っていた。それは騎士としてであって、全力ではない。魔法騎士としての力を使うのは、あの方のためだけ──。
「騎士の誓い」
だから、ようやく使うことができる。あの方のために鍛え上げた魔法武装。
背に生じる漆黒の光が三対六翼の形となって、顕現する。盾であり刃となる攻防一体型でもあり、あの方をお守りしつつ活路を見出すために代々受け継がれた魔法の一つ。
「な、なんだ、そのバカみたいな魔力の塊は! ふざけるな!! 獣よ、我の敵を食い殺せ! 漆黒の獣たち」
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