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後ろから襲いかかってきた四足獣を素早く感知して、羽根が槍となって獣を貫く。数が増えようと、一定の距離に入った瞬間──獣は貫かれ床に転がり落ちる。
「後ろからとは本当に屑だな」
「うるさい、勝てばいいんだよ。卑怯な手を使ってクローディアも、その騎士も殺したんだ!」
本当は剣で倒したほうが手っ取り早いけれど、大事なネックレスが傷つかないように両手で包み込むほうが大事だ。正面から勝てなかったから策を弄したのは、戦術的に正しい。ただそれだけだ。
死ぬ瞬間まで、後悔させてやる。
「まずは足だな」
そう呟いた瞬間、羽根の一つが矢の如く飛び出し、魔術師の左足を貫き、床に縫い留めた。
「ヒッ、ぎゃあああああ!」と喚き声まで聞くに堪えない。あの方の痛みはもっと、苦しみはそんなものではなかった。
次々と襲いかかる四足獣を肩翼の刃が貫く。
間合に入った段階で死角からだろうと獣を感知して一撃で屠る。
獣の死体が三十を超えたところで、魔術師の顔色が土色に変わっていく。
「わ、私の結界であり、私の世界なのになぜ!?」
「お前のチープな結界の中に私の特殊結界を張っているのだが、ああ、それすら気づかなかったのか」
「なっ、魔法塔の人間でもないお前が、そんな訳──っ、ああああああ! もうそんなことはどうでもいい! お前を殺す。命令と違うがお前さえ殺せば、そのネックレスは主人の元に戻らずに済むのだからな!! 暗き闇の王よ、我を贄に捧げて世界を滅ぼしたまえ──終焉!!」
ゴオオオオオオオオ!
闇が泥として具現化することで、この空間を泥で覆うつもりなのだろう。その泥も触れるもの全てを溶かしていく。
「お前も、あの娘も、不幸に!あはははっははは」
そう言って男は泥に呑まれた。術式による簡易召喚の劣化版か。これを結界の外に出すのはまずい。最後の最後まで非常に面倒な男だ。いやそれがわかっていたのに、できるだけ時間をかけて復讐しようとした私の慢心が招いたもの。
許せなかった。叔父を、クローディア様を害した者に苦痛と凄惨な死を与えるつもりだったのに……私はどこまでも、完遂できずに……。
『アシュトン様』
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