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私の名を呼ぶ方の声が聞こえた気がした。完遂すべきことはまだ残っている。私はどうなろうともいい。けれどこの両手にあるクローディア様の形見だけは、オレーリア様に届けなければ……。
その一心で、魔法塔まで辿り着けた。
夕暮れの闇夜が迫る中。オレンジ色の夕焼けが美しくて、最後にオレーリア様の腕の中で逝くとは贅沢なことだと、自己満足してしまった。
本当に私は騎士失格だ。
***
オレーリア様をお守りできず……本当に……申し訳ありませんでした……。心からそう思って目を閉じた。この先、オレーリア様が前を向いて進むためにも、幼かった頃の楽しい記憶だけでも取り戻して差し上げたかった。
オレーリア様……。
ふと目が覚めると私は生きながらえているだけではなく、視界いっぱいにオレーリア様のご尊顔が!
「!?」
え、な、寝顔を見るのは久し振りだけれど、もの凄く可愛い。天使? いや女神がどうしてこんな超至近距離に!?
ハッ、まさか天国!? いや、オレーリア様は生きておられる!
いや待て。全く覚えがないけれど、私は今、オレーリア様を抱きしめている?
無意識に? こ、これは事故です。事故なのですが……肌の温もりや柔らかさが伝わって……。
「愛しています、オレーリア様」
思っていたことがスッと声に出た。今まで《隷属契約》のせいで言えなかった言葉がすんなり口から零れ──胸を熱くした。
「オレーリア様、好きです、愛しています。ああ、やっぱり、オレーリア様への思いを声に出せている。ずっと、貴女様に言いたかった。貴女と藤の花を見に行く約束も、誕生日に一緒にダンスをする約束も、市井でデートする約束も全部、覚えています。何一つ叶えられず、貴女の全てを取り戻せるように奮闘したのに、居場所を作ることすらできませんでした。……本当に申し訳ありません」
すうすう、と眠っている愛おしい人。
こんなに近くにいるのは、いつぶりだろう。睫毛も長くて、長い髪に触れたらサラサラして、愛おしくてたまらない。キスしたいが、さすがに寝込みを襲うなど恐れ多い。いや、この状況がすでに死罪にあたる。しかし死ぬ前に、オレーリア様を別のベッドで寝かせるべきだ。でないと私の理性が蒸発するまでそう長くは保たない。オレーリア様を抱き上げて……。
「むうっ……!」
「──っ!?」
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