大好きな騎士団長様が見ているのは、婚約者の私ではなく姉のようです。

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 起き上がってオレーリア様を抱き上げようとしたが、寝ぼけていたのか私に抱きついて離れない。なんですか、そのあざとさ! 可愛い。  どこで覚えたんです!!? ハッ、あれですか、黒猫のぬいぐるみを抱き枕にして眠っているのですね。わかりますよ、アレは私の生涯のライバルでしたから!  それともあの留学生──。 「アシュトン様……」  私!? 私を思って?  あの留学生でも、黒猫のぬいぐるみでもない!?  勝った! そう思うと口元が緩んでしまう。  ぎゅっと、抱きついてくる。良い香りがするし、想像以上に柔らかい。抱きしめ返しても? いや、しかし……。幸せ過ぎる悩みに、理性もすり切れ寸前だった。 「おいて……いかないで……」 「──っ」  そんな切ない声で言われたら、もう騎士の矜持などどうでもいい。オレーリア様を抱きしめて、「大丈夫、私は何処にも行きませんよ」から、「愛しています」とか「好き、可愛い」と愛も囁く。  さすがにキスは我慢したが。そんなことをしていればオレーリア様が目覚めないわけもなく……。目覚めたオレーリア様は声にならない声を上げて、目を白黒させていた。 「あ、アシュトン様が壊れてしまった?」 「オレーリア様、狼狽する姿も実に愛らしい。愛しています。愛おしくて言語化が難しい。……貴女に触れても良いでしょうか?」 「……すでに触れています……よ」 「では、口づけまでは許して頂けますか」 「くち……くちづけ!?」  野いちごのように顔を真っ赤にして、なんて愛くるしいのだろう。もう何も我慢しなくていいということが嬉しくて、口元が緩んだ。  ***  それはとても幸福な夢で、アシュトン様が私のことを何度も「愛している」と囁くのだ。自分に都合の良い夢にちょっと胸が痛んだけれど、まだ彼のことが好きだったのだと、再認識してしまう。  アシュトン様のお日様のような香りに、抱きしめられた温もりは本物のよう。ああ、これが現実だったら、どれだけ幸せかしら。  ふと彼が離れそうな気配があって、必死で抱き留めた。もう少し。夢だったとしても、もう少しだけこの温もりを感じていたい。
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