大好きな騎士団長様が見ているのは、婚約者の私ではなく姉のようです。

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 そんな大胆なことができたのは夢だと思っていたからで、実際にアシュトン様に抱きついていたことなど知らなかった。アシュトン様の声がハッキリ聞こえて、温もりも吐息も掛かる距離で「アレ?」と思って目を開けたら、現実だった。 「!?」  アシュトン様って、思っていた以上に情熱的な方だったのね。ううん、それだけじゃない。私のことを影ながらずっと守ってくれていた。  だから──。 「アシュトン様、剣を自分の喉元に当てないでください。自害もダメです!」 「ですが、オレーリア様に無許可で抱きしめて、キスまで強請るなど……本来、命を以て貴女様をお守りする役割を果たせず、その上自分の欲望をオレーリア様に……。やはりここは命をもって罪を償うべき──」 「私が泣いてもいいのですか!?」 「それは非常に困りますので、自害を止めます!」  自分でもよくわからない説得をしたけれど、アシュトン様には効果絶大だったらしい。あっさりと剣を収めてくれた。  ビックリするぐらいアシュトン様は私に罪悪感を抱いていたようだ。ここ三日、ずっとうなされていたし、何度も私の名を呼んで謝っていた。その声を聞くたびに自分の想いが独りよがりではなかったのだと実感して、嬉しかったと同時に、彼の苦悩に気づかなかった自分を恥じた。なにが婚約者だ。私はアシュトン様のことを見ていたのに、気づけなかった。 「私は……どれぐらい眠っていたのでしょうか?」 「丸三日です。空中都市で魔素(マナ)が充実していたこと、回復薬と治癒魔法の使い手が多かったから助かったのです。……あ、暫くは安静にしていてください。清浄魔法をかけていますが、あと数日したらお風呂にも入れると思います」  治癒師に言われたことを伝えただけなのに、アシュトン様は嬉しそうに何度も頷いて答えてくれた。いつもの困った顔じゃない。  蕩けるような笑みに、心臓がバクバクしてしまう。 「オレーリア様がずっと傍に?」 「は……はい」 「私は今までオレーリア様に酷い態度をとっていたのに、貴女は天使、いや女神でしょうか?」 「え? わ、私は天使なんかじゃ」 「そんなことありません。私にとってオレーリア様は出会った頃から、愛らしくて、傍にいるだけで花や木々が明るく、世界は柔らかくなるのです。これはもう神の御使いだからこそなせる御業で間違いありません」
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