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私の髪は灰褐色で老婆を彷彿とさせるから、忌子だとも言われた。いつだって私の周りは否定ばかり。それでも私が耐えられたのは、好きな人の存在と、魔法塔の存在だった。
転生者として魔法のある世界は何もかも新鮮で、知識を得ることが楽しくて夢中になった。
転生者のギフトとして、この世界の文字、語学の全てが日本語で表記されて読めるのだ。古代文字だろうと、神々の書物だろうと関係ない。その特性を生かして、私は保険をかけておいた。
万が一、アシュトンの心が三年経った今でも姉にあるのなら、この国を出ようと。彼──侯爵家との繋がりを保つから末姫でなくてもいいのだ。私である必要性など、この国にはない。
普通の王女ならここで心を病むんだろうけれど、転生者である私には前世での経験や知識があり、王宮以外での生き方に抵抗もない。
職があれば一人でも生きてはいけるし、魔法の研鑽を積んで自分の身を守る程度には強くなった。
だから──。
「魔法塔に行くかどうか、決めるのは一週間後か」
「ウォルト」
私の横を歩いていた黒いローブの男は、愉快そうに話しかけてきた。
隣国の第十三王子ウォルトは我が国に留学していて、王城から魔法学院に通っている。私と同期で、彼もまた魔法塔推薦を得ている逸材だった。
褐色の肌に、緋色の長い髪、長身で美しく整った顔立ちは芸術品のよう。
そんな彼は魔法オタクで、私がどんな文字でも読めると知って魔法研究の協力を求められた。
初めて誰かに期待されたことが嬉しくて、二人で色々研究をしていたら、婚約者がいるのに不倫しているという噂が流れた。
いつものことだと諦めていたけれど、それに対して王家に抗議文を送ったのは、ウォルトだった。庇われたのも、助けようと動いてくれたのも、ウォルトだけ。今は少しだけ王宮での居心地もマシになった。魔法塔からも私の功績が他人から奪ったものでないと調査をしてくださったが、この国では公表されることはなかった。
悪者は悪者のままでいてほしいのだろう。
「魔法塔は完全実力主義で変わり者も多いから、きっとオレーリアも気に入るよ」
「そうね。明日と一週間後には会う約束をしているから、決着を着けてくるわ」
「そこまであの騎士に執着するのは、意地?」
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