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朧気ながら、そんな約束をした遠い昔の記憶が蘇る。王宮の庭だろうか。幻想的な蝶を作り出してお披露目をした──ような。
懐かしさと胸の温かさに、涙がポロリと溢れた。
「オレーリア様!?」
「あら……。なんだか、懐かしくて……」
「懐かしい……そう思ってくれるのなら、嬉しい限りです」
アシュトン様は目を細めて、頬にキスを落とす。もはやキスへの抵抗はない。恥ずかしいけれど、嬉しさと愛おしさが募るばかりだ。ここには私を蔑んだ目で見る人はいないし、王女らしく感情を抑え続ける必要も無い。今の私はただのオレーリアなのだから。
だからちょっと大胆になってアシュトン様に自分から抱きついて、唇にキスをする。ドキドキしたけれど、好きだという気持ちが溢れるのを抑えられない。
「オレーリア様……っ!」
「大好きです。……大好きです。何度だって言います。何度も言わせてください」
「それは私のセリフです。今まで抑え込んでいた重苦しくて引くかもしれない愛情を覚悟してください」
「あら、私だってアシュトン様に負けないぐらい、私の愛はえっと、溺れるほどすごいのですよ!」
何を張り合っているのだろうと、お互いに笑ってしまった。王女であることを捨てただけでこんな幸福が待っていたなんて。でもそれは今まで積み重ねて、耐えて、願いを諦めきれずにいたから。アシュトン様の繋がりは綱渡りのように危うかったけれど、ギリギリまで粘って諦めながらも未練がましくいたことが良かったのかも?
どちらともなく唇に触れたキスは、今までで一番甘い気がした。
***ウォルトの視点***
「それでは魔法使いオレーリアが編み出した魔法術式、功績及び所有権は彼女個人のものとし、今後彼女の許可なしに無断利用を行った場合、罰金対象となることをここに宣言します」
僕の上司かつ師匠である大魔法使いレニーは王の間で宣言した。良く通る声で有無を言わせない威圧感に、国王も王妃も青ざめるばかりだった。ああ、こんなことなら記録用魔導具で一部始終を録画しておけば良かった。オレーリアもきっとこの場にいたかっただろうし。
師匠は魔法使いに甘い。超甘い。万が一にもオレーリアが傷つくかもしれないと慮って、魔法塔の主人自ら動くのだから国王も王妃も驚いただろう。
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