大好きな騎士団長様が見ているのは、婚約者の私ではなく姉のようです。

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「抱き枕……黒猫のぬいぐるみ(ライバル)は……、もういないのですか?」 「黒い猫? ああ……ずっと昔に現王妃に取り上げられてしまったのですよ」  できるだけ明るく言ったつもりだったけれど、アシュトン様は途端に笑顔になった。これはガチギレの笑顔だわ。優しさの欠片もない目をしている。 「オレーリア様、五分ほど席を外しても?」 「アシュトン様、滅ぼしに行くとかダメですよ!」 「ダメですか?」 「ダメです!」  ションボリしてもダメなものはダメだ。あまりにも悲しそうに言うので「ダメじゃない」と言いそうになった。狡い。 「わ、私とのデートをそっちのけで行くほどのことですか?」 「そうでした。オレーリア様とのデート以上に優先事項などありません」  ちょろい。いやこの場合はそれで助かったけれど!  私とアシュトン様は魔法塔の一員として働くのはもう少し先となる。というのも、新居から新しい生活とやることが多々あるので、その準備期間を設けて貰っているのだ。  だから私たちは今までできなかったことを一つずつ叶えていこうとなり、空中都市の散策に、デートを重ねて、生活サイクルを二人で作っていく。  こういう時、王女ではなく前世の記憶や知識が役に立つ。料理も普通にできるのでアシュトン様に振る舞ってみたら号泣されて、食べるまで一時間は掛かった。 「オレーリア様」 「アシュトン様、もう様を付けるのは、……その、やめてみませんか? こ、婚約者ですし! よ、呼び捨てなど……」 「オレーリア様。それはダメです。私の心臓が保ちません。せめて183日ぐらいは心の整理が必要です」 「うん、ほぼ半年ですね。……手を繋いで、キスやハグはするのに」 「それとこれとはまた違います。そんな愛らしいことばかりですと、押し倒してしまいます」 「アシュトン様なら別に良いですよ」 「──っ!?」  ちょっと恥ずかしいけれど、本心だもの。この先も、この人と一緒に居られると思うと、ちょっぴり大胆にもなれる。  とびきり幸福を噛みしめながら、お互いに耳まで真っ赤になりながら照れ合ったのだ。これからとびきり幸福な時間が待っていると思うと、嬉しくてしょうがないわ。  END
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