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「……初恋だったし、ここ三年は婚約者として隣に立てるぐらいの関係は築けたと思っていたのよ」
「あれでね」
再会に抱き合っている姿を見て、見たことを後悔した。あんな風にアシュトン様が笑うところを見たことがない。楽しそうな顔も。
私といる時はいつも複雑そうな顔をしているだけで、会話も続かない。
思い出しただけで、泣けてきた。
出会った時はもっと違っていたのに、な。一目惚れして、話してもっと好きになって……。
「君の価値の素晴らしさに気付かない馬鹿どもは、そのうち後悔するだろうよ。君がどう決断するかは君が決めるべきだけれど、僕としては君がいてくれると研究が捗るし、一緒にいると楽しいとだけは言っておく」
「ありがとう。……ウォルトは、王位継承問題とかは大丈夫なの?」
「ああ、うちは兄妹が多いからさ、身内で争う前に布石を打ってあるから平気。どちらかというと、王位を継ぐ兄様が可哀想な感じかな。僕たち一族は多趣味かつ研究者気質だからさ。もっとも親世代が骨肉の争いをしてから、肉親同士の争いに関しては細心の注意を払っていた背景があるしね」
国によって、習慣や固定概念が大きく異なる。そう考えると、この国は特権階級の横暴と腐敗が進行している気がした。
表面上は緑と水に囲まれた国だけれど、その内面はあまりにも醜く見える。
「オレーリア様」
「──っ!」
背後から諌めるような低い声が耳に届く。振り返ると、先ほどまで姉と抱き合っていた私の婚約者様が佇んでいた。
怖いぐらい眉を吊り上げて、睨んでいる姿を見るたびに悲しくなる。姉が帰ってきた途端、露骨すぎる変化に泣きそうになった。
「アシュトン様、何か御用でしょうか?」
「クラリッサ様が役目を終えて戻ったというのに、どうして出迎えせずに離宮に向かっているのですか?」
私が今までどんな目に遭っていたのか、話したはずだったのだけれど……。 姉が帰ってきた途端、忘れてしまった? ううん、彼の優先度は全て姉だもの。私の話などどうでもいいのだわ。
「王妃と宰相閣下から、姉の出迎えは不要と書簡が届きましたからですわ」
「だとしても、これでは周囲からの印象が悪くなるばかりです」
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