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確かにここ三年で私の噂が少し下火になってきた。でもだからといって王妃と宰相閣下の忠告を無視したほうが後々面倒になる。そう口にしようとしたけれど、自分の中にあるどす黒い感情を押し殺して微笑んだ。
「ご用件は……それだけなのでしょうか?」
「いえ、私は……っ」
大股で私のすぐ傍まで歩み寄り、片膝を突いて手を差し出した。
「今から話をする時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
ずるい。そうやって困った顔をするばかりで、アシュトン様が微笑むことなんてなかった。眉を下げて困った顔で口元を微かに緩める程度だ。
ああ、姉と比較する自分が嫌だわ。
それでも婚約者として扱ってくれることが嬉しくもあって、ちょっと優しくされただけで簡単に決意が揺らいでしまう。本当に単純だわ。
「オレーリア様」
「……わかりました」
「それじゃあ、オレーリア。また学院で」
「ええ。ウォルト」
空気を読んでウォルトは、そのまま離宮にある書庫に向かった。あそこにはまだまだ解読し切れていない魔導書がたくさんあるのだ。
ウォルトはその書物を読み解くことしか頭にない。それでも私がアシュトン様に付いていくかどうか決断するまで待っていてくれたのだ。
隣国の王子なのに配慮がすごい。そんな人と友人になれて、それに関しては運がよかった。
***
アシュトン様と手を繋いで王宮内を歩く日が来るなんて……! いつもなら飛び上がるほど嬉しくて、浮かれていたと思う。けれど姉が戻ってきた今、私に向けられる眼差しは悪意と殺意ばかり。
両思いである二人を引き裂こうとしている悪女。今も手を繋いでいるのは、私が彼に無理を言ったからだと歪曲して噂として広がっていくのが容易に想像できる。噂を止めようと奔走していた頃もあったわね。
「…………無駄だったけど」
掴んでいる手はとても温かくて、何だか泣きそうだった。どうして婚約者の私が悪役にならないといけないの?
それもこれも美しい金の髪ではなかったから?
灰色と銀髪じゃ雲泥の差?
最初の王妃だったお母様の子供だったから?
「オレーリア様。ウォルト殿下とはよく一緒におられるのですか?」
唐突に声をかけられて、「はひ」と変な声が出てしまった。なんて淑女らしくない声。
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